仮想球モデルに基づく聴覚ディスプレイシステム

研究紹介


仮想球モデルに基づく聴覚ディスプレイシステム

人間は音を聴取することによって,臨場感という高次感性情報を含む感覚を得ることができる.この臨場感を再現するためのアプローチとして,任意の音場における聴取者の両耳音圧を厳密に再現する手法が考えられている.しかし,従来の聴覚ディスプレイでは,反射回折を含むような音場を再現することは困難である.仮想球モデルの原理を用いると,そのような音場であっても再生可能な聴覚ディスプレイシステムを実現することができる.


仮想球モデルの原理

聴取者の周囲に仮想的な球状の境界(仮想球)を設置し,仮想球表面上の各点における音圧(P ) 及び音圧傾度(P’ )を取得する.これらの値が既知であればKirchhoff-Helmholtz積分方程式を用いて仮想球内部の任意の点における音圧が計算できる.この音圧に仮想球表面から聴取者両耳までの頭部伝達関数( I )及び頭部伝達関数の法線方向微分( I’ )を畳み込むことで,任意の音場における聴取者の両耳音圧を合成することができる.また聴取者頭部の動きを検出し,頭部伝達関数を切り替えることで,聴取者の頭部の動きに伴う両耳音圧の変化を再現することができ,実際の聴取状況に即した音場再生が可能である.

両耳音圧の計算方法


聴覚ディスプレイの実装

5つの浮動小数点演算DSPを用いて,仮想球モデルに基づく聴覚ディスプレイシステムの実装を行った.このシステムでは,仮想球表面を5つの領域に分割し,各領域に1つDSPに割り当て,聴取者の両耳音圧の計算をリアルタイムで行っている.聴取者の頭部の動きを磁気センサを用いて検出し,そのデータはDSP5へと転送されたのち,各DSPに転送される.そのデータを基に各DSPにおいて適切なI,I’を選択し,それとP,P’との畳み込み演算が行われる.結果はDSP5へと転送され,合計されたのちD/A出力されて聴取者に提示される.


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