8 難聴と補聴



 補聴とは?
    歳をとると視力が衰えてきますが, 聴力もまた例外ではありません.耳の老化は個人差もありますが,40歳代から始まり, 60歳代から急速に進み,高い音(高周波数)から聞こえが悪くなってきます. また,音は聞こえても,言葉の聞き取りがうまくいかないことがよくあります.

    耳の構造をたとえると右図のように置き換えることができます. 各部品の故障で,音が充分に伝わらないため,スピーカーから良い音が出ません. 特に,蝸牛に障害を受けてしまうのが老人性難聴の特徴です.

 騒音と難聴
    難聴は歳をとるだけではなく,長期間,大きな音を聞き続けることによっても発生します.
    本研究室では,スピーカで音楽を聞く時,普段どのくらいの音量で聞いているか, 本当はどのくらいの音量で聞きたいのかを調査しました.その結果,本当に聞きたい音量で, 長期間音楽を聞くと聴力に影響を与える可能性のある人がいることがわかりました.


    青線:普段聞いている音量
    赤線:本当に聞いてみたい音量

    赤い点線より右では,長期間,長時間の聴取で騒音性難聴 を引き起こす可能性があります

        図.スピーカでの音楽の聴取レベル


 音声を聞き取る能力の評価

    聴力障害の早期発見や補聴器の適合評価などのためには, 実生活での音声の聞こえを評価する検査法が重要となります.

    本研究室では,“音声を聞き取る能力”を評価する, 新しい聴力測定方法について研究を行っています.言葉の聞き取り易さは, その言葉を知っているかどうかで違います. そこで,なじみの程度を表す親密度という尺度で言葉の難しさを合わせた, 1リスト50単語から成る,単語了解度試験用音表“FW07”を開発しました. さらに,聴取者への負担を考慮し,“FW07”をベースとした20単語からなる 実用的な単語リストを新たに構築しています. 


 図.親密度別単語了解度試験用音声データベース




 両耳分離補聴


     図.両耳分離補聴の概要
    
    加齢により蝸牛の機能が低下すると,低い音によって高い音がかき消されやすくなり, 言葉の聞き取りが難しくなってしまいます. これを解決する補聴の方法のひとつに,高い音の成分と低い音の成分を左右の耳に分けて入力する “両耳分離補聴”という方法があります.

    研究の結果,両耳分離補聴は周波数成分の聞き分けや,時間的に連続する音を聞き分けることが 困難である難聴者に対して有効なことが示されました. また左右の耳に提示する音の時間をずらすことにより,この補聴方法で問題だった 正面方向の音像の知覚を改善できることを示しました.



選択的両耳聴(カクテルパーティー効果)


     図.提案する選択的両耳聴アルゴリズムの
         ブロックダイアグラム
    
    選択的両耳聴能は,さまざまな方向から聞こえてくる音の中から, 目的の音を選択して聞き取る能力です. 難聴者ではこのような能力が低下するため,雑音下での聞き取りが困難になってしまいます.

    本研究室では,この能力をアシストし,雑音下での難聴者の聞き取りの向上を目指しています. 例えば,左右それぞれの耳に届く音は音の方向に応じて時間や大きさに差が生じます. これを利用し,目的の方向の音のみを取り出すことができます. この方法を用いて,正面の音とそれ以外の音を求め,両者の大小を比較することで,正面の 音のみを強調するシステムを提案しています.



骨伝導コミュニケーションシステム


     図.骨伝導デバイスを利用した補聴器
    
    骨伝導デバイスは空気ではなく骨を振動させることで音を耳に伝えます. 骨伝導デバイスを使うと耳をふさがずに音を聞くことができるので, 耳閉感なく,外の音を聞きながら音楽を楽しむことができます. また,圧電素子を振動子として使っているので,イヤホンまたはそれ以下の大きさまで 小型化できるというのも大きな特徴です.

    本研究室ではこれらの利点を活かし,骨伝導デバイスを音出力デバイスとした補聴器や, コールセンター用のヘッドセットの開発に取り組んでいます.


Last update: 2009.10.15