時変全域通過フィルタを用いて音楽信号の位相に周期的変調を加えることで,電子透かし情報を埋め込みます.
この変調の周期性をキャリアと見立て,さらに変調することで通信の分野で開発された様々な変調通信方式を用いて電子透かし情報を埋め込むことができます.
【埋め込み処理と検出処理(ノンブラインド検出)のブロック図】
エコー拡散法
(2002年5月
ICASSP'2002 で発表,2005年4月
IEEE Trans. on Multimedia に掲載)
位相多重化
(2005年2月 IEEE Trans. on Signal Processing に掲載)
マルチメディアコンテンツにおいては,著作権情報やコピー管理情報などの複数の透かし情報を一緒に埋め込めることが望まれます.
音楽メディアにおける透かしの代表的な用途として,「著作権管理情報」,「コピー管理情報」,「個人ID」の3種類が考えられるため,
これらの透かし情報を多重化して埋め込む方式を提案しました.
本手法では,透かしの埋め込み方式に周期的位相変調法を用いています.
コピー管理情報は,ユーザーの使用する装置で必要になる情報ですので,ブラインド検出(原信号を必要としない検出)が可能である必要があります.
一方,その他の二つは管理者が必要とする情報ですので,ノンブラインド検出を想定することも可能です.これらの要件を考慮して,
それぞれの変調方式として,FSK と PSK を採用するとともに,PSK と相性の良いトレリス符号で電子透かしを符号化することで,
データ圧縮処理などへの高い耐性も実現しました.
【透かし情報の割り当て】
|
変調周波数 |
変調方式 |
著作権管理情報 |
21.5 Hz |
PSK |
コピー管理情報 |
43.1, 60.9, 86.1 Hz |
FSK |
個人ID |
10.8 Hz |
PSK |
音メディアのユニバーサル化への応用
ディジタルコンテンツ保護以外にも,電子透かしの応用方法が考えられます.
例えば,公共空間における非常放送において,聴覚障害者にも放送内容が伝えられるような,
情報シームレス社会実現のための基礎技術のひとつが挙げられます.
本研究室では,電子透かし技術を利用して,
公共放送内容を聴覚障害者にも伝達可能な方式のプロトタイプを開発しました.
この場合の音信号はアナログ信号であり,空気伝搬する間に様々な歪を受けるため,
ディジタル信号の場合とは違った様々な厳しい条件を満足することが求められます.
本方式では,上で述べたエコー拡散法を用いることで,
頑健性と秘匿性を向上させています.
セキュアなVoIP(Voice over Internet Protocol)の実現
VoIPに用いられている音声圧縮技術と秘密分散共有法を組み合わせた,
従来の暗号法とは異なる暗号化音声通信方式を開発しました.
秘密分散共有法により分散した情報を,それぞれ異なる経路を用いて送ることで,
他者が物理的に全ての分散情報を集めることは困難となります.
またネットワーク上で盗聴を行ったとしても,全ての経路にて盗聴を行わなければ,原理的に会話の内容は一切わかりません.
さらに,携帯電話やPHSにも適用可能としました.
部分的秘密分散共有法による伝送量増大の抑制
伝送する音信号にそのまま秘密分散共有法を用いると,伝送する量は莫大なものとなってしまいます.
そこで秘匿したいのは会話内容であるという考えから,音声圧縮技術CELPに対して秘話を保てる範囲にのみ秘密分散共有法を適用する,
部分的秘密分散共有法を提案しました.
これにより伝送する量も最低限に抑えることが可能となり,ネットワークの帯域を大きく消費することもありません.
[音声圧縮技術CELPへの部分的秘密分散共有法の適用]
・この技術を用いたインターネット通信技術が,日本経済新聞など各種メディアに紹介されました.
他の暗号化方式とも併用可能
秘密分散共有法は,現在インターネットにおいて用いられている,IPsecやSSHなどの暗号方式とも併用可能となっており,現在のセキュリティの高さをさらに高めることが可能です.
また秘密分散共有法を用いた場合に必要な計算量は非常に少なく,携帯端末などの計算量を節約したい機器に最適な暗号化方式です.
複数の経路を用いた音情報の高品位伝送
新しい透かし埋め込みアルゴリズムの開発
より安全で快適な音情報通信を実現させるため,従来法とは異なる方法を用いて情報を埋め込むことで,
新たな特性を持たせられるような手法の開発や,
位相や継時マスキング以外の聴覚特性を利用した,
新たな埋め込み手法の開発を目指し,研究を行っています.