頭部伝達関数の測定は,清水建設技術研究所の無響室において1996年に行われた.
測定系を以下の図1に示す.被験者は,グラスウールのシートでできた無響室の
床に置かれた,ヘッドレストのついた座椅子型の器具の上に足を伸ばして座った.
無響室にとりつけられたトラバーサは,任意の角度に回転させることが可能で,
そのアームにとりつけられたスピーカは,アームに沿って動かすことができる.
結果として,スピーカを,被験者を囲む上半球(半径:1.2 m)上を動くことが可
能である.
インパルス応答測定の音源信号には,時間引き延ばしパルス
を用いた.被験者の両耳に,小さなエレクトレット型のマイクロホンを,ピアノ
線を用いて固定した.マイクロホンの出力は,アンプによって増幅された後,
A/D変換されてDSPにおいて逆フィルタを畳み込んだ.サンプリング周波数は44.1
kHzであり,それぞれの測定点において8回の同期加算を行った.
このような条件で,3名の男性被験者の頭部伝達関数を測定した.音源の位置は,
上の図2に示された●の点である.仰角により設置する音源の角度間隔を変えた.
その概略を表1に示す.結果として,合計454点の頭部伝達関数を測定した.測定
の間,被験者には動かないように指示をしたが,全方向の頭部伝達関数を測定す
る間に8〜9回の休憩をはさんだ.それらの休憩により,被験者の頭部の位置が変
化しないよう配慮した.被験者1人あたりの測定時間は約4時間であった.
表1:HRTFの測定方向の仰角による変化
仰角 [°] | 角度間隔 [°] | 測定点数 |
0 | 5 | 72 |
10 | 5 | 72 |
20 | 5 | 72 |
30 | 6 | 60 |
40 | 6 | 60 |
50 | 8 | 45 |
60 | 10 | 36 |
70 | 15 | 24 |
80 | 30 | 12 |
90 | --- | 1 |
計 | | 454 |
測定された各インパルス応答に対して,512ポイント長の矩形窓を適用して切
り出しを行った.このとき,インパルス応答の最大値が窓の中心付近となるよ
うに窓の位置を合わせ,かつ,左右耳までの経路差によって元から存在する相
対的な時間差(位相差)は保たれるようにした.具体的には以下の通りである.
- 基準方向として最も遅延時間が長いと思われる,耳と反対方向のイ
ンパルス応答に対して,その最大値となるところに矩形窓の中心を合わせ窓をかける.
- 他の方向については,窓の位置を
aのものと同じにする(したがって必ずしも中心が応答の最大値の位置とはな
らない)ことで,各応答間の相対的な時間差が変わらないようにした.
- たとえば,城戸健一 他,基礎音響工学(コロナ社)
…音響学一般
- たとえば,J. Blauert,森本政之,後藤敏幸 編著,空間音響(鹿島出版会)
…HRTFの定義,聴覚における空間知覚について
- Yôiti Suzuki, Futoshi Asano, Hack-Yoon Kim and Toshio Sone,
"An optimum computer-generated pulse signal suitable for the
measurement of very long impulse responses,"
J. Acoust. Soc. Am., 97(2),
1119-1123(1995).
…時間引き延ばしパルスについて
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