8 音知覚のしくみを探る


  聴覚探索における非対称性

    騒がしい場所では,特に注意を向けなくとも目立つ音や気にかかる音が存在します. 目立つ音の特徴やその知覚メカニズムを調べることで,全方位に対して最も有効な監視機能を有する 聴覚の情報処理機構の解明に役立つものと考えられます.

    本研究では,目立つ音の特徴を調べる手法として探索非対称性に着目しました. 聴覚探索実験により,変動(ゆらぎ)を持つ音や意味音声が瞬時に見つけられることがわかりました.


    図:視覚探索における非対称性の例
    (「円」と「木」,Treisman et al., 1985)
    左側の図で円を見つけるのは難しいですが,右側の図で木は簡単に見つかります. このように,探すもの(目標物)と邪魔するもの(妨害物)が入れ替わるだけで,探索の難易度が大きく変化します.


    刺激音数の変化に伴う探索時間の変化 (赤:意味音声青:無意味音声


  音質の劣化を聴き分ける

    符号化技術を利用した圧縮によって,わずかではあるが音質が劣化してしまいます. では人間はどのようにして,このようなわずかな音の変化を音質の劣化と認識しているのでしょう.

    本研究では音質の劣化を知覚する能力が,音自体の印象の知覚に大きく関与していると考え, 通常の音と音質を劣化させた音の印象を評価してもらう実験を行い, 音質劣化が大きくなると“甲高さ”が増加する傾向がある事がわかりました.


    図:甲高さ因子の劣化による変化.
    縦軸は“甲高さ”を,横軸は右へ行くほど音質が劣化している事を示します. 劣化が大きくなるにつれ,甲高さが増加している事がわかります.


    印象評価実験の回答例.聞こえた音楽の印象をいくつもの形容詞対を用いて評定します.

Last update: 2005.7.12